研修はやっている。帰社日もある。資格も支援している。

それでも、1年で辞めていく。

SES・客先常駐の会社で人材育成のご相談を受けると、ほぼ必ずこの話になります。そして経営者の方はたいてい、こう続けます。「これ以上、何をやればいいのか分からない」と。

私も同じ場所に立っていたことがあります。自分で創業したSESで、離職が止まらなかった時期です。当時やったのは、研修を増やすこと、面談を増やすこと、懇親会を開くこと。ほとんど効きませんでした。

効かなかった理由が分かったのは、ずいぶん後になってからです。

研修の中身が悪かったのではありません。届く前に消えていたのです。

なぜ、SESの新人研修は現場に届かないのか

SESの育成が難しいのは、構造そのものに原因があります。3つに分けて見ると、はっきりします。

① 会社と接点があるのは、月に1回

自社オフィスで働く会社なら、廊下ですれ違う、昼を一緒に食べる、隣の席の会話が聞こえる——こうした偶然の接触が毎日あります。判断の背景や、会社が大事にしていることは、その雑談の中で自然に伝わっていきます。

客先常駐では、これが全部ありません。会社と接点を持つのは帰社日の数時間だけ。その数時間に、育成も、評価も、相談も、懇親も、全部を詰め込むことになります。

結果として、研修は「月1回のイベント」になります。イベントは、終われば日常に戻ります。翌日から現場に戻れば、目の前の案件があるだけです。制度は「聞いたことはあるが、中身は知らない」ところで止まります。

② 自分の単価がどう決まっているのかを知らない

これが、いちばん根が深いところだと思っています。

SESで働く方の多くは、自分の単価がいくらで、それがどうやって決まっていて、何をすれば上がるのかを知りません。聞きづらいですし、会社も積極的には説明しません。

単価は、交渉でうまく押し込んだときに上がるものではありません。出せる現場のレベルが上がったときに上がります。この構造を知らないまま「もっと評価されたい」と思うと、行き着く先は転職サイトです。

「スキルを上げてください」と言われても、上げた先に何があるのか分からない。資格を取っても、何が変わるのか分からない。評価が上がっても、それが単価に効いているのか分からない。

努力と結果のあいだが、見えない。この状態で「成長しよう」と言われ続けるのは、暗闇の中で走れと言われているのと同じです。

そして転職エージェントは、そこをはっきり示してきます。「いまのあなたなら、この金額です」と。社内で見えなかったものが、社外では数字で提示される。辞める理由としては、これで十分です。

③ 評価の基準が、言葉になっていない

「何ができれば一人前か」を、その会社の言葉で説明できるでしょうか。

多くの現場で、これは上司の頭の中にあります。書かれていません。だから評価する人によって基準が変わり、教える人によって教え方が変わります。

基準が人の頭の中にあると、異論を言えなくなります。「決まりと違う」と言えないからです。それは、その人への批判になってしまう。

新人の側から見ると、こうなります。何を目指せばいいのか分からないまま、なんとなく評価される。同期が先にリーダーになったとき、その差を説明できる人が社内にいない。このとき人は、努力の方向を見失います。

3つとも、根っこは同じ

接点が少ないこと、単価が見えないこと、基準が曖昧なこと。

一見バラバラですが、共通しているのは「会社と社員のあいだに、共通の言葉がない」ということです。

接点が月1回でも、共通の言葉があれば、その1回で通じます。単価の話も、「この能力がこの水準になると、こう変わる」という言葉があれば説明できます。評価も、基準が言葉になっていれば、誰が評価しても同じ結論になります。

逆に、共通の言葉がないまま接点だけ増やしても、毎回ゼロから説明し直すことになります。それが「研修をやっても効かない」の正体です。

拙著『チームのワークエンゲージメントを仕組み化する スキルマネジメント』で一貫してお伝えしているのも、ここです。現場のリーダーが自信を持てない根源は、能力の不足ではありません。「判断基準」と「共通言語」を持たないまま、手探りでマネジメントしていることです。部下の側から見ても同じで、基準が言葉になっていなければ、頑張りようがないのです。

だから必要なのは、もっと熱心な上司でも、もっと手厚い研修でもありません。「人」ではなく「仕組み」です。

共通言語をつくる——スキルマップという道具

では、どうやって言葉にするか。

いちばん確実な方法がスキルマップです。「この職種の、この等級では、何ができている必要があるのか」を一枚に言語化して、全員が見られる場所に置く。それだけです。

これがあると、3つの断絶が同時に埋まります。

断絶スキルマップがあると
接点が月1回帰社日の面談が「何を話すか」から始まらない。現在地と次の一歩が先に見えている
単価が見えない「この層に上がると、どういう案件に入れるか」を、能力の言葉で説明できる
基準が曖昧評価する人が変わっても、同じものを見る。新人も、目指す先が分かる

抽象的な能力は、そのままでは伸ばせません。サブ能力に分解して「意識の光」を当てる。これが能力の因数分解であり、スキルマップの正体です。派手なことは何もしていません。見えるようにしただけです。

ただ、ここで多くの会社が止まります。

スキルマップは、作っただけでは動かない

「作ったのに、誰も見ていない」

このご相談を、業種を問わずいただきます。そして原因を突き詰めると、だいたい一つに行き着きます。

スキルマップは「会社が社員に求めること」の言語化です。会社の側から見れば、これで十分に見える。基準を作って、配って、説明した。やるべきことはやった、と。

でも、社員の側が自分ごととして受け取らなければ、ただの表で終わります。客先常駐では、この「自分ごと化」がとりわけ難しい。

配られた表を見て「なるほど、これが自分の道か」と思う方は、そう多くありません。多くの人にとって、それは会社から渡された、また新しい評価シートです。

必要なのは、配ることではありません。欲しがってもらうことです。

だから、ゲームを作りました ——『SESロード』

自分が働いている会社のしくみを、自分で動かして体験できたらどうか。

そう考えて作ったのが、新人SESエンジニアを主人公にした、ファミコン風のブラウザゲーム 『SESロード』 です。インストールは要りません。ブラウザだけで動きます。

配属、初めての現場、先輩の単価を知ってしまった夜、同期が先にリーダーになった日、半期の考課、そして「この会社にいる意味」を考える瞬間。全180の場面を、毎月の選択で進んでいきます。

体力・エンゲージメント・客先からの信用・社内での信用・資金——5つのゲージがあり、2本が同時に尽きたとき、物語は終わります。「ひとつの破綻は、必ず二つ目を連れてくる」という、SESの現場感覚をそのままルールにしました。

研修で「単価の仕組みはこうです」と説明しても、たいてい右から左です。でも、自分の選択で単価が変わる経験をすると、質問が生まれます。

大事なのは、遊んだあとに起きること

  • 自分の単価が、何で決まっているのかを説明したくなる
  • 昇格の条件を、上司に聞いてみたくなる
  • 評価が何を見ているのかを、知りたくなる

つまり、社員の側から「基準を見せてほしい」と言い出す状態がつくれます。スキルマップを配るのではなく、スキルマップを欲しがってもらう。これが、この15分の本当の狙いです。

順番が逆なのです。配ってから使ってもらうのではなく、使いたくなってから見てもらう。

遊んで終わりにしない

プレイ後、本人には行動診断が出ます。特徴は「何が自分のやる気を動かしたか」を、アンケートの回答ではなく実際の選択データから言語化する点です。サーベイが測るのは“状態”、この診断が診るのは“行動”。社員は本音を書きませんが、ゲームでは素が出ます。

会社側にはA4一枚の報告書が残ります。燃え尽きの兆候、休息不足、回避傾向、意欲が下がった場面——そして1on1で何から話すべきかの提案。印刷して、そのまま面談に持ち込めます。

なお、この診断は人事評価・査定には使いません。評価に使った瞬間、社員は正直に遊ばなくなり、目的と矛盾するからです。報告書にも、その注記を入れています。

まとめ ——育成を、現場で回る「仕組み」にする

人が辞める理由を「給与」や「人間関係」で片づけると、打ち手が精神論になります。SESの育成が難しいのも、担当者の熱意が足りないからではありません。会社と社員のあいだに、共通言語がないからです。

  • 共通言語をつくる → スキルマップ
  • 自分ごとにする → 体験(ゲーミフィケーション)
  • 続ける → 週報・1on1・評価に組み込む

この3つが揃って、はじめて育成は現場で回り始めます。育てる人を疲れさせず、育つ人を迷わせない。それが、スキルマネジメントの考え方です。

『SESロード』体験版 ——SES業界を、遊んで理解する。

案件、スキル、単価、評価——現場で説明しても伝わりにくいものを、自分で選んで、結果として体験できるブラウザゲームです。第2章まで、登録なしですぐ遊べます。インストール不要・スマートフォン対応。

▶ 体験版で遊んでみる(無料・登録不要)

新人研修の導入に/帰社日のアイスブレイクに/内定者への配布に。

よくある質問

Q. SESの新人研修は、どれくらいの頻度でやるべきですか

頻度より、接点の設計が重要です。帰社日を月1回確保しているなら、その時間を「情報伝達」ではなく「基準のすり合わせ」に使うほうが効果が出ます。

Q. スキルマップを作るのに、どれくらいかかりますか

職種と等級の数によります。まずは1職種・1等級から始めるのが現実的です。全部を一度に作ろうとすると、たいてい途中で止まります。

Q. ゲームで研修をやって、社員は真面目に受けてくれますか

「研修です」と言うと構えられますが、「3分だけ触ってみて」と渡すと、ほとんどの方が最後まで遊びます。ファミコン風にしているのは、操作を覚える必要がないためです。

Q. 診断結果は人事評価に使えますか

推奨していません。評価に使うと社員が正直に遊ばなくなり、エンゲージメント改善という目的と矛盾します。1on1の対話材料としてお使いください。

Q. 体験してみることはできますか

体験版を無料で公開しています。インストール不要、スマートフォンのブラウザで遊べます。体験版はこちら

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